-グノーブルの添削によってどのような語学力を身につけることができるのか-
英語科 本原 昭彦
英語科 本原 昭彦
はじめに
「ネイティブのように英語を使いこなすためには文法にとらわれてはいけない」のような文法不要論を耳にすることがありますが、そこには「文法」と「文法用語」の混同があります。
Q:グノーブルでは英文法をどのように捉えて指導を行っているのでしょうか。
 世の中には数千の言語があるといわれていますが、文法のない言語はなく、また文法を軽視してもよいという言語もありません。それにもかかわらず、「ネイティブのように英語を使いこなすためには文法にとらわれてはいけない」のような文法不要論を耳にすることがありますが、そこには「文法」と「文法用語」の混同があります。
 日本語のネイティブ・スピーカーである私たちは、日常生活で「五段活用か、上一段活用か」のような文法用語を意識することはありません。それでも、「走る」を否定するときには五段活用で「走らない」と言います。「走ない(はしない)」のように上一段活用をさせることはありません。つまり、言語活動を成立させるためのルールである「文法」は確実に存在し、だからこそ私たちはある言い方が正しいかどうかを判断できるのです。
 他方、「文法用語」とは文法のルールを説明するために作られたもので、言語能力とは直接関係のないものです。文法が身についていることと、文法用語を知っていることは、全くの別物です。文法学習の目標は文法用語をたくさん覚えることではなく、文法の仕組みを理解し、身につけることなのです。
 ところで、子どもは母語の文法をどのように学ぶのでしょうか。言語習得については解明されていない部分も多いのですが、例えば名詞に “a/an "をつけるかどうかを学ぶ場面を考えてみましょう。
 英語では1個のリンゴは "an apple" ですが、調理で細かく刻んだり、すりおろしたリンゴは"an" のつかない "apple" となります。 バナナの場合、1本なら "a banana"、すりつぶした状態なら "a" のつかない "banana" です。 幼い子どもは、実物のリンゴやバナナの様々な状態を見ながら、同時に、まわりの人が "an apple / apple"、"a banana / banana" のように異なった言い方をしていることにも気づいていきます。
 そしてそのような観察から、果物の状態の違いと表し方の違いを結びつけていくのです。このような「現実の世界」と「言葉による表し方」の結びつきこそが「文法」であり、それを子どもたちは自ら発見していくのです。
 幼い子どもは「完全な形のものには"a" や "an" をつけて、形のくずれた状態のものには何もつけない」のように、文法の仕組みを言葉で説明することはできません。だからといって、"an apple / apple" "a banana / banana" "an orange / orange" "a melon / melon" …… というようにすべての果物について「完全な形のもの / 形のくずれたもの」のペアを丸暗記していくわけでもありません。おそらく、次のような回路が頭の中にできているのでしょう。
1.[認識]目から入ってくる果物の映像を「完全な形のもの」と「形のくずれたもの」に分ける。
2.[表現]前者には “a/an+(   )” 、後者には “(   )” という枠組みを対応させる。
3.[認識]その果物を「リンゴか、バナナか、オレンジか、メロンか……」のように種類分けする。
4.[表現]その種類を表す語(apple、banana、orange、melon……)を2の (   ) に入れる。
 この回路が「文法」と呼ばれるものです。(単純化して書きましたが、実際には「単数か複数か」「どれを指すのかがわかるかどうか」「だれかのものか」「近くにあるのか遠くにあるのか」などの視点も加わります。)
 このようなプロセスを考えると、文法を学ぶ理想の環境とは、常にその言語にさらされながら生活をし、自らもその言語を使い、どのような場面でどのように言葉が使われているかを目の当たりにできる環境、語の選択・活用・結合などのルールが「気がついたら身についている」という環境、ということになります。
 年齢的な要因もあります。母語以外の言語を学ぶとき、私たちは母語の影響を受けることになりますが、その影響は一般に年齢の低い学習者ほど少ないとされています。
 このように考えると、日本で、日本語に囲まれた生活をして、母語である日本語をすっかり習得してしまっている皆さんの英語学習の環境は、決して恵まれたものではないということになります。
Q:英語を学ぶにはほぼ手遅れな状況ということでしょうか。
 しかし、だからといって悲観的になることはありません。確かに皆さんの置かれた環境では、日常生活での実体験を通して「文法を発見する」ことはほとんどないかもしれません。他方、大人に近づきつつある皆さんには知力が備わっていて、その知力を使うことによって、英語が使われている場面を想像したり、文法の仕組みを分析したり理解することができます。つまり、幼い子どもが文法のルールを発見していく過程を追体験する力があるのです。
 グノーブルで学ぶ文法は無機質なルールの暗記ではありません。例えば、上記のリンゴやバナナの例のように、英語を話す人たちのものの捉え方や考え方にも目を向けて文法の仕組みを説明します。皆さんの理解に役立つのなら、文法規則の歴史的な成り立ちにも言及していきます。
 また、高校生の皆さんはひと通りの文法学習を終えた方も多いと思いますが、グノーブルで学ぶ文法は、単なる既習事項の確認・復習にとどまりません。新たな切り口から文法を捉えたり、別々の文法事項と思われるものを統一的に説明する授業には様々な「発見」があり、刺激を受けてもらえるはずです。
 さらに、グノーブルでは、授業で理解した文法事項を、「sentences for workout」と呼ばれる音声つきの例文を使って、聞き取り、音読、書き取りなど繰り返しワークアウト(練習)できる体制が全学年で整っています。これを通じて、最初は頭で理解していた文法事項が「気がついたら使えるようになっていた」「文法をいちいち意識しなくなっている」という状態になり、理想的な文法の姿に近づいていきます。このように文法が自然な形で身につくということは、英文を返り読みせずに前から理解する力につながりますし、英語で考えながら表現するということの土台にもなります。
 文法の仕組みを説明する際には文法用語も使いますが、それは中学生・高校生の皆さんが英語の仕組みを理解するためには、抽象的な文法用語をある程度用いることが有効だからです。もちろん、文法用語を覚えることが目的ではありません。その文法事項が理解でき、身についた段階で、文法用語は不要となります。
 文法の授業では空所補充や正誤問題などのいわゆる「文法問題」を扱いますが、これも文法問題を解くことが目的なのではありません。習った文法の理解や運用力を測り、確実にするための手段として行っています。
Q:グノーブルでは高校2年生(新高校3年生)の冬期講習から、英語の授業が「読解」と「作文・文法」に分かれますね。
 グノーブルでは当然今、お話ししたような学習を高校1・2年生から進めているわけですが、高校2年生(新高校3年生)の冬期講習からは、より本格的な問題に取り組めるように、1日の中で「読解」と「作文・文法」とを2時間ずつ学ぶ授業形態に変わります。
 例えば、自分から発信しなければならない英作文では、読むこととは別の能力が必要となり、英作文に特化した対策が求められます。
 問題と解答が手元にあっても、英作文の「正解」はひとつではないため、自力での取り組みには限界があります。自分の書いた英文を添削してもらうことが不可欠です。この意味で、授業内演習や宿題の英作文の添削を毎回、豊富に行っているグノーブルの「作文・文法」の授業は大いに皆さんの役に立つはずです。うまく対策できた人とそうでない人の差がつきやすい分野なので、受験直前の1年間をかけてしっかり学んでいきましょう。
 今回は高校2年生(新高校3年生)から学習する「作文・文法」について、グノーブルの授業の内容や特徴などについてお話しいたします。
授業・宿題について
自力で書いてみることは重要ですが、自分の答案を見直して正していく自己修正力を養うことも大切なことです。「とりあえずの答案」をそのまま提出して真っ赤になって返されるより、自分なりに練り直した「ベストな答案」をさらに添削してもらうほうがはるかに深いものを得られます。
Q:授業はどのように進むのでしょうか。
 最初に何種類かの演習プリントを配布しますが、皆さんには英語で記述する問題から解いてもらいます。記述の答案はできた人から回収し、その場で授業担当者が添削していきます。その間、皆さんには文法や語彙などを扱った他の演習プリントに取り組んでもらいます。回収したものは添削がすみ次第返却し、すぐに解説を行っていきます。
 添削をした問題については、添削の状況を踏まえて解説を行います。問題へのアプローチの仕方を紹介するとともに、間違いの多かったところを指摘し、なぜそれが間違いなのか、どういう点に気をつければ良かったのかを説明していきます。また、関連した表現を紹介したり、既習事項と結びつけて説明したり、皆さんの役に立つ情報をなるべくたくさん伝えられるように解説をしていきます。
 もちろんグノーブルの授業ですから、そのような解説も一方的に行われるのではありません。誰かをあてて答えてもらったり、クラス全体に問いかけたりしながら授業を進めていきますので、皆さんには頭をフル回転させてもらいます。
 また演習の一環としてリスニング問題やディクテーション問題も行います。これらには音声教材「GSL」が対応しており、グノーブルでは耳や口を刺激しながら学習できる体制が整っています。(音声教材「GSL」については こちら 、また英語の学習において耳や口を鍛えることの重要性については こちら についてもご参照ください。)
Q:宿題はどのようなものが出されるのでしょうか。
 毎回、宿題として出しているのは『Grammar & Writing』という文法のテキストと、提出用の英作文プリントです。
 グノーブルの文法のカリキュラムは、中学部で学習したものを高校部の各学年で発展的に復習していく形になっているのですが、高3の『Grammar & Writing』でも7月までは単元別の文法学習を行います。毎回の問題量は実質4~5ページ程度と少ないのですが、文法のエッセンスが凝縮されていて、1題1題しっかり取り組むことで文法事項に対する理解を深めることができます。
 翌週の授業で解説するのはこちらの『Grammar & Writing』のテキストのみです。英作文プリントは提出してもらったものを添削して、次回の授業で返却します。
Q:提出用の英作文プリントとはどのようなものでしょうか。
 毎週、和文英訳の課題を毎週2枚ずつ、さらに自由英作文も頻繁に提出してもらっています。
 7月までの和文英訳の問題は、直近の文法テキストを後追いする形になっています。たとえば、ある回に配布される2枚のプリントの1枚目が仮定法、2枚目が助動詞を使う問題だったとします。この場合、仮定法はその週の授業で取り扱った単元、助動詞はその前週に扱った単元となっています。つまり、宿題の英作文プリントを解くことによって、授業で扱った文法単元を2週連続で復習することになるのです。
 この宿題の英作文プリントにはある工夫がしてあります。ひとつの問題に対して、「下書き」と「書き直し」のふたつを書いてもらうようにできているのです。
 まずは「下書き」の解答欄に、何も見ないで自力で答えを書きます。それからプリントの下の方を見ると「誤答例」というコーナーがあり、それぞれの問題に関してよくある間違いが書かれています。皆さんは「下書き」で書いた自力の答案を、この「誤答例」でチェックするのです。また文法や語彙に関する不明点は辞書や参考書、ノートなどを参照して、自分なりのベストな答案に仕上げます。これを「書き直し」のところに書いて提出してもらう形になっています。
Q:同じ問題に対して2回解答を書くことになるのですね。どのような意図があるのでしょうか。
 答案を2度作成するというのは、確かに少し手間のかかる方法ではあります。しかし私たちはこの手間がとても大切だと考えています。
 自力で書いたものを、客観的な視点で見直して、不明なことは自分で調べて解決する、あるいは試行錯誤をしながらより良いものへと練り直していく、こういうプロセスが、皆さんの作文力を高め、また答案作成力を鍛えていきます。自分の不足している点を毎回きちんと自覚することが成長のきっかけをつかむことにつながっていくのです。
 自力で書いてみることは重要ですが、自分の答案を見直して正していく自己修正力を養うことも非常に大切なことです。「とりあえずの答案」をそのまま提出して真っ赤になって返されるより、自分なりに練り直した「ベストな答案」をさらに添削してもらうほうがはるかに深いものを得られます。
英作文の力をつけるためのヒント~和文英訳編
難度の高い和文英訳を出す大学は、文章の内容を頭の中でしっかり整理できているか、はっきりと思い描けているのか、そしてそれをわかりやすい、正しい英語で訳せているかというところを見ているのだと思います。
Q:英作文のうち和文英訳のタイプの問題が上達するにはどうすれば良いでしょうか。
 先ほど述べたように、グノーブルでは音声つきの例文「sentences for workout」を使った、聞き取り、音読、書き取りなどの練習を日常の学習に取り入れています。こうしたことを通じて、様々な英文が語彙の知識・文法の理解とともに蓄積されていきますので、基本的な和文英訳の問題であれば十分に対応することができます。
 他方、毎年非常に訳しづらい問題を出題する京大や、2018年から久しぶりに和文英訳の出題が復活している東大の問題などには、別の力も必要になっていきます。
 基本的な問題の場合、「この車はあまりに高すぎて買うことができません」や「この本は私がこれまで読んだ他のどの本よりも面白い」のような、半ば人工的な、「和文英訳のための日本語」が多く見られます。他方、難度の高い問題の日本語は、私たちが日常的に使っている、あるいは文筆家による「本物の日本語」です。ある構文を条件反射的に当てはめたり、日本語の単語と英単語を1対1で置き換えるようなやり方は通用しません。日本語を英語にそのまま移してもうまくいかないので、様々な工夫が必要になります。
 例えば次のような和文英訳の問題があります。
「学生時代にあれこれと幅広い知識を身につけておくことが大切である。まわり道 と思えても、いろんなことを学んでおけば、それが将来意外なところで役に立つものである」
 この中の「まわり道」はどう訳せば良いのでしょうか。和英辞書では" roundabout way "や "detour" などの訳語が示されていますが、これは文字通り「遠回りの行き方、迂回路」ということであり、この問題における訳語として使って良いのかどうか躊躇します。このように、直訳するのはおかしいけれども、どう訳せば良いのか迷う言葉が、和文英訳ではしばしば出てきます。
 そのような場合のひとつのアプローチは、同じ文章の中に「まわり道」と関連のある言葉、例えば言い換えや逆の意味の言葉がないかを探してみることです。それが見つかればその単語を手がかりにして訳語を考えることができます。与えられた日本語では「 まわり道と思えても……それが将来意外なところで役に立つ ~」となっています。つまり、「まわり道」と「役に立つ」が反対の意味で用いられていると考えることができます。この点に気づくことができれば、「まわり道」= a waste of time(時間の無駄)、of no use(無益な)という表現を当てることができます。
 このように、日本語の表面的な言い回しにこだわらず、筆者が何を言おうとしているのかを頭の中で整理する力が必要となります。
 別の問題を見てみましょう。
「いかなる時代に生きていても、本は人間にとって、大いなる喜びであり、救いである。若い頃読んだ本の感銘は一生忘れがたいものだ」
 この問題の「救い」はどう訳せば良いでしょうか。
Q:"rescue"(レスキュー、救援)ではないのですね。でも、先ほどの「関連のある言葉を探す」という方法も使えそうにないですよね。
 では、ここで述べられている「本に救われる」という場面を想像してみましょう。そもそも、本に救われるのはどのような人なのでしょうか。幸せな日々を送っている人が本に救われるということはないはずです。そうではなく、つらい出来事があってふさぎ込んでいる人がいて、悲しい小説を読んで泣いてしまう、けれども泣いたことで少し気持ちが軽くなった、とか、何かに失敗して挫折している人が、ある本を読んで「こんな生き方もあるんだ」「こんなふうに考えればいいんだ」と前向きになれた、そのような体験が「本に救われる」ということだと思うのです。
 そうした場面を想像できれば、例えば「救い」= comfort(慰め)、hope(希望)という訳語を思いつくことができるのです。
Q:まず日本語をしっかり読めていることが大切なのですね。
 そうです。このような難度の高い和文英訳を出題する大学は、日本語の1語1語を英語に対応させられるかということではなく、文章の内容を頭の中でしっかり整理できているか、はっきりと思い描けているのか、そしてそれをわかりやすい、正しい英語で訳せているかというところを見ているのだと思います。
Q:そうした語句にはある程度パターンのようなものがあるのでしょうか。
 「まわり道」= a waste of time とか、「救い」= comfort といった、語句レベルのパターンを覚えることは無意味です。それよりも、関係のありそうな言葉を探す、描かれている場面を想像する、のように、問題への取り組み方を身につけておくことのほうがはるかに重要です。
 そのためには、良問に数多く当たり、試行錯誤をしながら自分なりの答案を作り、そしてそれを添削してもらう、 ― そういう経験を積み重ねていくことで、様々な問題にしなやかに対応できる力が身についていきます。
英作文の力をつけるためのヒント~自由英作文編
私たちはどうしても日本語や日本文化の影響を受けた英文を書きがちです。そしてそのことになかなか気づかないのです。そのことに気づくきっかけとして、添削指導の持つ意義は大きいと言えます。
Q:自由英作文のタイプの問題が上達するにはどうすれば良いでしょうか。
 自由英作文の場合は、和文英訳とはまた別の力が必要になってきます。綴りを間違えない、文法的に正しい、というのは最低限必要です。その上で、英語の文章の組み立て方にしたがって、誰にでも理解できるわかりやすい文章を書く力が求められます。
Q:文章の「組み立て」とはどのようなことでしょうか。
 例えば、日本語では「あれこれ」とか「あちこち」と言いますよね。決して「これあれ」「こちあち」とは言いません。ところが英語は逆で、必ず "this and that" "here and there" と言うのです。つまり、近くにあるものを中心にして、そこから遠くへ広げていくという発想法・表現法をとるのです。
Q:確かに住所の書き方も逆ですね。
 その通りです。そして、英語で文章を組み立てるときの原理も同じなんです。あることを主張するときは、まず自分の主張の核となる結論を提示します。その後に、理由説明や、具体例を続けていくのです。つまり「中心から周辺へ」広げていく展開です。
 この点、日本語は、ああでしょ、こうでしょ、だから賛成です、のように外側から徐々に狭めていき、最後に中心となる結論にたどり着く展開、つまり「周辺から中心へ」という、英語と逆の展開が一般的です。自由英作文を書き慣れていない人の場合、母語である日本語の影響を受けて、結論を後回しにする答案が少なからず見られます。
 理由を述べるときにも「中心から周辺へ」が原則です。「英語以外に何語を学びたいか」という題で自由英作文を書いてもらったことがありました。圧倒的多数の人が中国語と答えていましたが、理由説明の多くが「中国語はとても多くの人に話されているから」「中国は経済や工業の分野での進出が目覚ましいから」のような中国語や中国についての客観的な情報から始まっているのです。しかし、答案全体を読むとわかるのですが、中国語を学びたい「直接の理由」、つまり、中国語で何をしたいのか、中国語は何に役立つのかというところまで突き詰めると、例えば「世界の多くの人と語り合いたい」や「国際的なビジネスに携わるという将来の夢に役立つ」ということのようでした。英語で説明するのであれば、このような「直接の理由」を最初に示して、その後に状況的な説明を続けるのが基本なのです。
Q:文章の展開以外にも日本語との違いはありますか。
 気づいていない人が多いかもしれませんが、文章を発信する際の態度や心構えも日本語とは大きく異なります。
 日本語は省略が多い言語です。また、すべてを語るのではなく、読み手に言外の意味を汲み取らせるという傾向の強い言語です。意味を正しく捉えることができるかどうか、その責任を読み手が負っている言語(reader-responsible language)ということができます。
 この点、英語は読み手に非常に親切な言語で、日本人の感覚だと「そこまで言うの?」というところまで表現していることが多いのです。丁寧に詳しく説明しないと正しく伝えることができないという考えが根底にあるのだと思います。日本語と逆で、書き手側に責任がある言語(writer-responsible language)ということになります。
 読み手に委ねるという日本語の特色は、従来の日本の社会が、人種や文化の点でかなり均質的であったことに由来するのかもしれません。似たような人たちの中で暮らしているのだから、自分の頭の中にあることは他の人とも共有できているはず、よってすべてを語る必要はない、という発想です。
 しかし、皆さんがこれから生きていく時代は、たとえ日本国内にいても、様々な文化や価値観を持った人たちと共存していくことが求められる時代です。そのような人たちに対して、自分の意見や考えを論理的に、そして丁寧に発信していかなければならない時代なのです。
 とはいえ、私たちはどうしても日本語や日本文化の影響を受けた英文を書きがちです。そしてそのことになかなか気づかないのです。この課題に気づくきっかけとして、添削指導の持つ意義は大きいと言えるでしょう。
Q:受験生の答案によく見られる間違いはありますか。
 三単現(三人称単数現在)の "-s" のつけ忘れや、時制の間違いがよく見られます。
 これらの間違いをしてしまう大きな理由として、日本語と英語の文法構造の違いが挙げられます。歴史的に見ると、英語はヨーロッパの大部分の言語やイランからインドにかけての地域の一部の言語とともに、共通の言語から枝分かれしてできたものだとされています。専門的にはこれらの言語をインド・ヨーロッパ語族と呼んでいます。
Q:まず三単現の "-s"のつけ忘れに関して教えてください。
 インド・ヨーロッパ語族の特徴の1つとして、動詞の形が主語の人称(一人称、二人称、三人称)や数(単数、複数)によって変化するという点が挙げられます。「(私が)歩く」と「(あなたたちが)歩く」では形が違うということです。動詞の形で主語がわかるので、いちいち主語を言わなくてもよい言語も少なくありません。主語と動詞が密接に関連し、一体化しているのです。
 現代英語では主語の人称や数による動詞の変化はほとんど失われ、主語が三人称単数形で現在時制の場合に限り「三単現」という特別な形が存在するだけです。主語が省略されることもありません。それでも、「三単現」が残っていること自体、主語と動詞が一体化しているというインド・ヨーロッパ語族の特徴を引き継いでいることを示唆しています。したがって、英語の話し手は主語を口にした時点で「動詞はどのような形になるのか」という判断を無意識のうちに行っているものと思われます。
 これに対して、日本語では主語の人称や数が動詞の形に影響を及ぼすことがありません。主語が「私」でも「あなたたち」でも、「歩く」は「歩く」です。日本語のネイティブ・スピーカーである私たちが、主語による動詞の活用に手こずるのはある意味あたりまえのことです。
 そのような間違いを減らすためには、自分が語ろうとしている場面を頭の中で思い描き、誰が何をしているのか(主語と動詞)をしっかりとイメージする必要があります。少なくとも、慣れるまではそのような意識化が必要です。
 英語を話したり書いたりするときは、主語が誰なのかを明確にして、動詞がどのような形になるのかを意識する、その上で、英文を暗誦したり、書いたりするワークアウトを何度も繰り返して、定着させる。そのような練習を重ねることによって、最初は意識的にやっていたものが、徐々に無意識にできるようになり、自動化され、三単現の" -s" のつけ忘れもなくなっていきます。
Q:時制の間違いについてはどうでしょうか。
 動詞の時制の仕組みも日本語と英語で大きく異なります。英語では、動詞ごとに時制を決めるのが基本です。例えば「6時に起きて7時に家を出る」という行為は、いつ行われるのかによって以下のように表現されます。
 "I got up(過去) at six and left(過去) home at seven."
 "I get up(現在) at six and leave(現在) home at seven."
 "I will get up(未来) at six and leave[=will leave](未来) home at seven."
 これに対して、日本語の動詞の時制は相対的に決まることが多く、以下の例の「起きて」のように、文を最後まで聞かないと時制がわかりません。
 「6時に起きて、7時に家を出た」(「出た」が過去→「起きて」も過去)
 「6時に起きて、7時に家を出る」(「出る」が現在→「起きて」も現在)
 「6時に起きて、7時に家を出るつもりだ」(「出るつもり」が未来→「起きて」も未来)
 このような時制の定め方に慣れている私たちは、英語で発信する際にも「起きて」のような感覚で時制を曖昧にしがちです。
 英語で正しく発信するためには、述べようとしている場面をしっかり思い描き、表そうとする行為や出来事が現在のことなのか過去のことなのかを意識することが必要です。その上で、ワークアウトなどのトレーニングを通じて少しずつ無意識であっても正しい表現ができるように指導していきます。
東大・医学部など志望校に向けた学習について
出題形式は様々であっても、常に問われているのは、設問を正しく理解する力、それに対して適切な内容を、間違いのない表現で書く力です。幅広く問題に当たり、そしてそれぞれについてどのようにアプローチすれば良いかの試行錯誤の経験を重ねることで、様々な問題に対応できる力を身につけることができます。
Q:東大・医学部など学校別の対策はどのようにしているのでしょうか。
 東大の場合は、例えば「下の絵(鏡に映っている自分が、見ている自分と違う表情をしている絵)を見てそれについて思うところを書きなさい」とか「Look before you leap(跳ぶ前に見よ)と He who hesitates is lost.(躊躇するものは好機を逃す)という相反する意味のことわざを説明した上で、どちらの方が自分にとって良い助言だと思うかを述べなさい」など、多彩な自由英作文が出題されます。
 ある年に絵に関する問題が出たからといって、翌年も同じ形式のものが出るとは限りません。それまでにはなかった新しい形式での出題、いわゆる新傾向の問題もしばしば見られます。このようなことからも、過去問偏重の勉強はあまり効果がなさそうです。
 一見、対策の立てようがないようにも思えるかもしれません。しかし視点を変えると、出題形式は様々でも、常に問われているのは、設問を正しく理解する力、それに対して適切な内容を、間違いのない表現で書く力、と捉えることもできます。グノーブルの授業では東大タイプのものを含め、多様な形式の問題を扱います。すでに述べたように、宿題では様々なテーマの自由英作文にも取り組んでもらっています。このように、幅広く問題に当たり、そしてそれぞれについてどのようにアプローチすれば良いのか試行錯誤の経験を重ねることが、結局は様々な問題に対応できる力をつける確実な方法と言えます。
 医学部では自由英作文が多く出題されます。すべてが医学部ならではのテーマというわけではありませんが、医療や健康についての意見を述べる問題はやはり多く見られます。そのような問題の場合も、自分の中で考えがまとまっていれば、あとはそれを正しい表現で、英語の文章らしく展開させていくだけですから、日頃から様々なテーマの自由英作文に取り組み、添削を受けていることがそのまま医学部対策となります。
 英作文そのものについて言えば、凝った文体や難しい言い回しを多用するのではなく、むしろ平易な文章で、論理的に、わかりやすく説明することが求められます。
Q:「自分の中で考えがまとまっている」という部分は高校生にとって難しいことのように思います。英作文を書く上で必要な教養とはどの程度のものでしょうか。
 医学部だからといって特別に専門的な医学の知識が求められるわけではありません。むしろ、世の中で起こっている医療や健康に関する問題や出来事に日頃から目を向け、それに対するいろいろな人たちの様々な意見に耳を傾けるという姿勢があれば、自分なりの考えを持つことができます。
 医学部を目指している人に限らず、書籍やニュース、新聞などを通じて、自分が専攻したいと思っている分野、そして社会全般に対して関心を持っておくことは、教養を身につけるためにも大切なことだと思います。
「読解」と「作文・文法」との関係
読解の勉強が作文・文法の土台となり、作文・文法の知識が読解力を深めるのに役立ちます。 両者は「相補い合う関係」「相深め合う関係」です。
Q:グノーブルでは高校3年生で「読解」と「作文・文法」に授業が分かれますが、ふたつの授業はどういう関係なのでしょうか。
 授業形態としては「読解」と「作文・文法」が別の授業で、担当も異なりますが、もちろんこのふたつは「別の教科」ではなく、英語という同じ言語を、別の角度から捉えたものにすぎません。両者は「相補い合う関係」にあり、また「相深め合う関係」でもあります。
 先ほど、自由英作文の話で、英語的な展開や構成で書くべきだと申しましたが、そのような文章構成方法は「いろいろな英文に触れる」という経験を通じてから体得されるものです。つまり読解の勉強が作文力の土台となるのです。
 良い文章を書くためには、自分自身で文章を書いて、そしてそれを添削してもらうという訓練が不可欠です。しかしながら、英語で文章を書くためのベースとなるのは、多くの英文に触れるという経験です。しかも、単に多読をするのではなく、文章の構成や説明の仕方を吟味しながら、じっくりと英文を読み込む、味わう、そういう経験が必要です。そして、そういう経験の場となるのが読解の学習なのです。
 グノーブルでは音読という学習方法を勧めています。自分がその文章を書いた本人になったつもりで、誰かにその内容をプレゼンするように読むというグノーブル流音読法は、英語で文章を書くための土台作りとして最適の勉強方法となるのです。
Q:「読解」の復習が「作文・文法」の土台を作るということですね。逆の場合はどうなのでしょうか。
 読解では内容理解に注意が向かいがちとなり、そこで用いられている表現そのもの、例えば語彙や文法に対する意識が低くなるかもしれません。この点、英作文や文法の学習は「正しく表現する」ことを第一に考える分野なので、結果的に語彙・文法に敏感になり、センスが磨かれていきます。
 そして、この語彙・文法のセンスがあれば英文をより正しく読み取り、より深く味わうことができるようになります。また、そのようにして読む英語の量が増えれば、英作文で使える表現もさらに増えていくことになります。このように、読解と作文・文法は「相補い合い」「相深め合う」関係にあるのです。
 読解の勉強が作文・文法の土台となり、また、作文・文法の知識が読解力を深めるのに役立つのだということを意識して、バランス良く英語の勉強に取り組むことが、大学受験を乗り切り、そして大学に入ったあとでも役立つ、総合的な英語力を培う最善の勉強方法なのです。
 また、グノーブルでは、音声教材を用いた聞き取り・書き取り、そしてプレゼンに等しい音読による復習を重視しています。ひたすら単語や例文を書き続けたり、英文を目で追って黙読するだけの勉強法とは異なり、日々の学習を通じて英語を聞く耳、英語を話す口も鍛えています。このことは、リスニングやスピーキングの力にも直結していきます。事実、「グノーブルで培った力が大学でのプレゼンやディベートに大いに役立っている」と語ってくれる卒業生は多くいます。
 具体的には、塾内誌『Gno-let』のvol.12掲載の日米学生会議に参加した卒業生や、vol.16に掲載されている英語のディベートでリーダーシップを発揮できたという「グノーブルOB・OGインタビュー」をご覧いただければと思います。(既刊の塾内誌『Gno-let』については こちらをご覧ください。)
伸びる生徒の学習方法
「よく考えながら書くこと」に注意してもらいたいです。そうしないと、与えられた日本語を表面的にしか読まず、さらに英語を書くことに夢中になってしまい、何を書いているのかという中身のほうが疎かになりがちです。
Q:本原先生が添削をしているときに気をつけて見ている点はなんでしょうか。 
 その生徒が「よく考えながら書いているか」という点を見るようにしています。例えば次のような下線部英訳の問題を出したことがあります。
日本の文化と西洋の文化は、 調和と対立の原理に根差すものとして対比されることが多い。 日本人は伝統的に自然を恵み深いものと考え、それと共存することを願うのに対して、西洋人は自然を征服すべき敵対物と考える」
 すると、多くの生徒は
"Japanese culture and Western culture are often contrasted in that they are rooted in the principle of harmony and opposition."
のように「調和と対立の原理」を" the principle of harmony and opposition" と書いているのです。しかし、少し考えればわかることですが、「調和と対立」というひとつの原理というのは意味をなしません。常識的に考えて、また、あとに続く具体例から判断すれば "the former is rooted in the principle of harmony and the latter (is rooted) in that of opposition" 「日本の文化は調和の原理に根差し、西洋の文化は対立に根差す」と解釈すべきなのは明らかなのですが、多くの答案がそうなっていないのです。
 この例のように、与えられた日本語を表面的にしか読んでおらず、さらに英語を書くことに夢中になってしまい、何を書いているのかという中身のほうが疎かになりがちです。よく考えながら書いている生徒は、表現だけでなく、内容にもしっかりと目を向けた答案を書いています。皆さんにはこうした点に注意して取り組んでほしいと思っています。
Q:英作文においてつまずきやすいところだったり、乗り越えるのが大変なところはどんなところですか。
 一口に英作文がうまく書けないといっても原因は様々です。単語力が不足していたり、文法的に間違っていたり、英語の組み立てがおかしかったり、書いている内容が聞かれていることとずれていたりと、なかなか一概に言えません。
 このため、自分はどこが弱いのか、どういう間違いが多いのか、という自己分析が第一歩となります。そこがわかれば、対策も立てやすくなります。
Q:伸びる生徒の学習方法に特徴はありますか。
 伸びる生徒の多くは復習する習慣が身についています。それも、単に作業として問題を解き直すのではなく、「なぜ間違ったのか」という原因をしっかり考えながら復習しています。そのような自己分析を行いながら復習することで間違いが少なくなっていくのです。
 生徒たちには添削が戻ってきたときに復習するだけでなく間をおいてもう一度やってごらんと言っています。解説を聞いた直後はできなかった問題がスラスラ書けることが少なくありませんが、二週間後にはまたできなくなっていたりするものです。
 自分の理解度を繰り返し検証し、理解の不十分なところはしっかり見直し、補強する。そういう地道な復習を通して確実な学力を築いていってほしいと思います。
 また、グノーブル流の音読法(書き手になったつもりで文章の内容を誰かに伝えるように行う音読法)を継続的に行っている生徒は、英語的な論理、文章の展開方法、説明の仕方などをどんどん吸収していきます。その結果、自由英作文を書くときにも、「日本語で内容を考えてからそれを和文英訳する」という書き方から、「最初から英語で考えて英語で書いていく」という書き方に次第に変わっていきます。そのようにして書かれた英文は、おのずと自然な、無理のないものとなります。上質な英語を正しく、丁寧に、味わいながら読むという読解の体験が英作文の土台になっているからです。
 逆の見方をすると、音読をやっていない生徒に「英作文は日本語ではなく英語で考えながら書くんだよ」と言っても効果はありません。そういう生徒には、まずは単文を書くという土台作りを徹底するように指導しつつ、音読を通じて英語で発信する疑似体験を積むことが自由英作文において欠かせないということを強調しています。
 とはいえ、文章を書くということは難しいものです。いい表現が浮かばない、この説明の仕方ではわかってもらえないような気がする、そういうフラストレーションは母語であってもしばしば感じるものです。しかしそのような体験をすることで、次に英文を読むときに「ああ、これがあの時使いたかった表現だ」とか「そうか、こういう例を使えばわかりやすいんだな」という発見があり、成長につながっていきます。
 うまくいかないときに、原因を探る、どうすればうまくいくか対処法を考える、そのように前向きに、客観的に自分を見る力を通して、皆さんは成長することができるのです。
付録 高3英語の添削例