『宇治拾遺物語』下巻に、「水無瀬殿のむささびの事」という説話があります。
後鳥羽院の時代に、院の離宮であった水無瀬殿に毎晩光る物体が飛び入っていたが、ある晩、景賢(かげかた)という男がそれを射落としたところ、大きなムササビだったという話です。

大学生の頃、ゼミでこの話を取り挙げて発表したことがあるのですが、その時の教授からの質問が、今でもとても印象に残っています。
「あなたは、この話が成り立つ大前提は何だと思いますか?」というものでした。
さて、それは何でしょう?

答えは、「昔は、今とは比較にならないぐらい夜が暗かった」です。
昔は夜の闇が深かったはずであり、その前提がなければ、この話は成り立たなかったということです。

私たちは古文を読む際、往々にして現代人の感覚で読んでしまいがちです。
しかし、数百年単位の隔たりは無視できません。
それを意識して読むのとそうでないのとでは、理解の深まり方は大きく異なります。
私の授業では、そんな「小さなこと」も大事にしながら、作品を読んでいきます。

どうぞよろしくお願いします。